仮面ライダーディケイド考察小説 第十四幕 「そいつらは」
全てのライダーを破壊し、最後には自らもライダーとなる力を失った士。
心の中、どこかで偽りだと分かっていても…その願いが叶うのではないかと言葉を漏らす。
「これで…あいつらが帰って来れる」
「おめでとうディケイド!」
指一本動かすのもままならない彼に、不愉快な賞賛が降り注いだ。
それは旅の間ずっと付きまとっていた不協和音――
「鳴滝…」
どんなに暑かろうがロングコートを着込んで離さない、趣味の悪い言葉を辛辣に述べては去っていくあの男が、士の眼前に今再び現れた。
「忘れてたぜ。随分と姿を見ていなかったな…実家にでも帰ってたか?」
鳴滝は毒づく士の言葉が聞こえていないかのように、両腕を広げて続けた。
「これで二十五人すべてのライダーがカードとして封印された…ディケイド、お前も含めてだ」
「清々したか?」
「清々なんてものではない、素晴らしい!これで私の悲願が達成されるのだからな!」
鳴滝が時空の壁を呼び寄せると、そこから現れた怪人たちが士を取り囲んだ。
そして、眼前に歩み寄ってくるのは全身をこれでもかとサメの意匠に身を包んだ青色のライダー、仮面ライダーアビス。
「お前は…鎌田!」
かつて戦ったその相手の名を呼ぶと、頭を振って答える。
「ほう、覚えていてくれたか」
仮面ライダーアビスこと鎌田は地面に落ちていたライドブッカーを拾い上げた。
「それに触るな!」
それには俺の―
口に出かかった言葉は止まったが、発作的に動いた体はアビスへと突進した。
だが生身で敵うわけもなく、軽く振り払っただけの一撃で士は宙を舞い、地面に叩きつけられてしまう。
「ぐぐっ…!」
「これはもはやお前には必要ないだろう」
「鳴滝様、これを」
「ご苦労だった、アビス。海東はどうなった?」
仮面ライダーアビスは仮面の下でほくそ笑んでいるのか、肩が微かに上下した。
「ええ、最後まで抵抗しましたが結局、全身を引き裂かれて息絶えましたよ」
「…!」
士は全身の毛が逆立つのを感じた。
しかしそれに応えてくれる力は無く、立ち上がることすらできない。
「光夏海の方は」
「あの女には逃げられましたが…ライダーでも何でもないものに何ができるとも思えません」
鳴滝は納得したかのように頷くと、ライドブッカーを開き中のライダーカードを取り出した。
「今、すべての世界が重なり合っているこの場所は、このライダー達が楔となって繋ぎ止めている。次元破断装置を改良したシステムのおかげで、お前にちょろちょろされることもなく、な」
カードの枚数を確認し再びライドブッカーに収納する。
「そしてこのライドブッカーごとカードをすべて消滅させたとき、世界を繋げていた楔は外れて解放されるとともに、宇宙創成…ビッグバンにも匹敵する超極大のエネルギーが生じる。そのエネルギーを手に入れれば、遂に『私』が完成する!」
「何を言ってるのかわからねえな…一体お前は…鳴滝じゃないのか!?」
「鳴滝とは仮の姿…私の名は」
そこまで言うと鳴滝はふらりと力なく倒れ、その後にはもう一人の男が立っていた。
鞘に納めていても周囲の空気を裂く魔剣、
宝玉を埋め込まれた蛇の盾、
白と真紅のマントを翻し、毒気を帯びた鎧をあらわにする。
顔は白い化粧に塗り隠されているが、強烈な眼光が歪に笑っている。
「剣聖、ビルゲニア」
ビルゲニアと名乗ったその男の足元に転がる鳴滝は、すでに息絶えているように見えた。
「こいつは念のために同化した、ディケイドライバーを作り出した研究員の一人だ。これまで良く隠れ蓑として耐えてくれたよ」
「ディケイドライバーを…作った?」
「考えたこともなかったか?それはそうだろうな。偶然次元を渡り歩いた先で手に入れた、身を守るための道具程度にしか思っていなかっただろう。…まあ、もうすぐ死ぬお前には関係のないことだ、フフ…ハハハハハ!」
「思えば長かったよ…Blackに敗れ、シャドームーンに敗れ…それから幾世紀も彷徨ったが」
高笑いをしながら盾をアビスに任せ、ライドブッカーを天高く放る。
「ふざけるな…!」
士はあらん限りの力を振り絞り、叫んだ。
「そいつらは…!」
「何だというのだ?お前と共に戦ったライダー達を消したこいつらが」
ろくに会話を交わすこともなく、ただ戦いの中ですれ違っただけだった――士はいつもそうして世界と関わり続けてきた。それは彼ら二十四の戦士達とも変わることは無い。
「さあ、世界が終わり、始まるのだ!」
落下してくるライドブッカーめがけ、ビルセイバーを引き抜きその凶刃を閃かせた
――その時。
『ソードベント』
仮面ライダーアビスが、ビルゲニアの背中に鋭い斬撃を放った。
<続く>