不肖不精な置小屋 seasom2

仮面ライダーのS.H.Fの写真を中心に、まったりやってます

仮面ライダーディケイド考察小説 第二十六幕 「慈悲」


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「はああっ!」

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 仮面ライダークウガの攻撃が、ケルベロスⅡの体に直撃する。

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 クウガの拳からはこれまでにない封印エネルギーが放出され、ただのパンチでさえその残留した威力が紋章を刻む。
 よろめくケルベロスⅡだが、

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 すぐさまダメージなど無かったかのようにクウガに襲い掛かった。

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「…!」

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 巨大な爪の一撃を躱し距離を取ると、クウガは腰を落としてケルベロスⅡを観察した。

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(攻撃は通用してる、だけど再生してしまうんだ…物凄く速い速度で。それなら…!)

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「いっくぞぉぉ!」
 右足に力を集中させる。
(ありったけ、全力の一撃で!)

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 アマダムの力が高まったその瞬間、クウガの右足にライジングマイティの甲殻が出現し、更に真っ黒な色に染まる。そして――

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『殺す!』
「…!?」
 突然脳裏に響いた声が背筋を凍らせた。

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 ケルベロスⅡはクウガの集中が途切れて力も霧散したのを見逃さずに踊りかかる。

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「うわった!」
 突進を受け止め、押し返そうとするが――

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「ま…ったか…!」
 全身に迸るエネルギー、そして脳裏に響く暗く激しい声、共に戦いが続けば続くほどに高まっていく。

 その声が告げるのは、聖なる泉枯れ果てし、その時。

(覚悟はしてたけど…こんなにも辛いのか、自分の中の…悪意に対する…悪意が!)

 五代雄介の顔を思い出す。
 あの人もこれに苦しんでいたのだろうか。

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「うおおおおおっ!」
 雄叫びを上げて脳の中の声を弾き飛ばすと、ケルベロスの体を押し返す。

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「ああああああ!」
 両手に力を籠め、

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 声が聞こえないギリギリのパワーでひたすら拳を繰り出す。

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「ガッガガガッ!」

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 無数に体へと叩きつけられた紋章がケルベロスⅡの胸板を紅く染める。
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「いける!」


 ――ろしてくれ


「ああああああっ!」

 クウガは声が聞こえないように一心不乱に打ち続けた。再生を許さずに止めを刺すために。自らが闇とならないように。

 だが――聞こえた。



――殺してくれ。

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「…!」
 拳は止まっていた。
 声も止まっていた。
 聞こえたのは――悲鳴。
「ころしてくれぇ…」
 ケルベロスⅡの胸から覗いていた顔。
 その瞳に、輝きが灯っていた。

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「痛いんだ…もういい…不死の願いも、ライダーシステムも、BOARDも、もういい…もう…い…い…たい…くるし…」

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 だがその輝きはケルベロスⅡの体が再生し、封印エネルギーが放出されるにしたがって失われ、完全に消える頃にはその悲鳴もまた消えていた。

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「ガアアアア!」
 そして野獣の口が咆哮を上げ、クウガに爪を振り下ろした。

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 一つ一つが大剣のような爪がクウガの腕を捕え、切り裂こうとした。

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「!?」
 ケルベロスⅡはうろたえながらも爪を押し付けるが、びくともしない。
 ユウスケはため息をついて、深く息を吸った。



「変なことを聞くようだけど…ユウスケは未確認生命体と戦うとき、何を思って戦う?」

――いや、深くは考えないっすよ。とにかくやらなきゃやられる、みたいな感じです。

「そうなんだね」

――あねさんもそうじゃないですか?悪人を捕まえる時とか…まあそんな、あいつらとの闘いみたいに蹴ったり殴ったりは多くなさそうですけど。

「確かにね」

――なんか悩んでるんすか?

「そんなんじゃないよ。ただ、ちょっと怖くなっただけ」

――怖い?あねさんでもそんなことがあるんだなぁ。…超凶悪な未確認が出たとか?

「君だよ」

――オレ?

「君が戦って、戦い続けて、青いクウガや緑のクウガ、そして紫のクウガに変わるようになって…見違えるように強くなった。でも、その度に君が戦うことに慣れてしまったようで」

――確かに、怖くは無くなったけど…

「一つだけ覚えておいてほしいんだ。たとえどんな相手であっても、思いやりを忘れないでほしい」

――あの殺人怪物共に?

「未確認だけじゃなく、君が立ち向かう、これからすべての事柄に。そして君の為に、優しい君でいて欲しいんだ」

――よくわかんないっすよ。

「そうだね、済まない」

――まあでも、オレがいる限り、あねさんは絶対守りますよ!

「…頼りにしてるよ」



 ようやく分かった気がする。
 あねさんが、心配してくれていた意味が。

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「…痛くて、辛いんだな」
 ユウスケは、ケルベロスⅡに語りかける。

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「…!?」
 すでに再びアンデッドの妄執と欲望に飲み込まれた『彼』に反応は無く、

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 次々と攻撃を返すのみだった。

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「アンタが本当に望んでいることは出来ないかも知れない、けれど!」
 ユウスケに、もはや悪意の声は聞こえなかった。

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 そして全身が黒く染まり、輝く雷が形を成す。

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 迷いを振り払うように両腕を振り抜き、黄金の鎧を身に纏った黒い戦士が立つ。

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 仮面ライダークウガライジングアルティメットフォーム。これまで自らの意志ではコントロールどころか変化すらできなかったその姿に、彼は到達した。

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「オレがアンタにしてやれる事を…せめて!」

 再び足に、力を、そして願いを籠める。

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「はああああああああああ!」

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「だあ――っ!」
 ありったけの力で、放った一撃。

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「…!」

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 これまでのいずれの技とも違い、その力は周囲への過剰な余波を生まず、全てを相手の体内へと集約させていく。

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 ケルベロスⅡの肉体が、不死の力を封じられて崩壊していく。

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 消し飛ぶ刹那、見えた人影が一瞬笑ったように見えた。

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「…」
 自分の拳を見つめ確かな思いを胸にした戦士。

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 彼は友の下へと駆ける。自らの意志の力を持って。

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 聖なる泉は、今再び満たされた。