仮面ライダーディケイド考察小説 第十幕 「逢魔が時に陽が沈む」
こうして戦い続けて、ふと士は考える。
自分が会ってきた彼らのオリジナルだと嘯く同じ存在のライダーたち、そしてさらに他の次元に存在していた十五人のライダー。
それらを倒すことに、始めは抵抗も無かった。
士にとってそのライダーたちは士にとっての「オリジナル」を対消滅させてしまう存在であり、敵だと判断して。
だがこうして戦いすれ違っていく中で、彼らは彼らだ、という思いから目を背けることができなくなってきていた。
彼らとも思いを繋げることはできなかったのだろうか。
今は戦うこととばかり導かれて、その実操られているだけではないのか?
それでも士はまた新たな戦場へと足を踏み入れる。
「なんだ…?」
次元移動を終えた士の足元にはすでに、瓦礫と化した世界が広がっていた。
周囲には火が燃え盛り、あちこちで破損に耐え切れなくなった建造物が崩れ落ちていく。
「これじゃあまるで…」
俺が戦った後の世界じゃないか。
そう言いかけて言葉を切る。
破壊は分け隔てなく行われたようではなく、点在する巨大なクレーターがそこに強力な衝撃を受けたことを物語っている。
だがその規模は、ディケイドのファイナルアタックライド、それよりも大きい。
不意打ちを警戒しながら探索するディケイドの目に飛び込んできたのは、衝撃的な光景だった。
「仮面ライダーBlack、それにRX…!」
そこには二人の仮面ライダーBlackが、見るも無残な姿で横たわっていた。
「おいどうした!一体何が…!」
全身をズタズタに引き裂かれ、もはや傷口が修復する様子もないBlackだったが、近寄った士は思わず息をのんだ。
彼はそのベルトから、力の源であるキングストーンを引き千切られている。
恐る恐る、彼はBlackに手を触れた。
「……」
すでに、息絶える直前。
だがディケイドが触れたことによって瀕死のBlackはカードとして封印される。
「がはっ…!」
「RX…!」
咳き込み、全身を痛みに震わせながらもRXが起き上がろうとする。
「つ…士か…」
「その声…お前なのか、光太郎!」
南光太郎。
仮面ライダーBlack、仮面ライダーBlackRX両方の変身者である南光太郎は、かつて士と出会い、共闘したことがあった。
その『士にとってのオリジナル』である彼が、なぜかここにいる。
「あ、ああ…ゲホッ!あの時は…世話になったな」
「喋るな…!死んじまうぞ!」
手を差し伸べようとして、虚空でディケイドの指先が止まった。
もしこのまま触れてしまえば、ダメージの大きいRXはBlack同様にスーツの機能によってライダーカードとして封印されてしまうかもしれない。
「そ、のまま…聞いてくれ」
息も絶え絶えにRXは語り始めた。
「俺たち…過去の南光太郎であるBlackと、俺…RXは、お前の事を知っていた。」
「だからキバへの協力を拒み、ライダーマンに頼んでカードに封印された状態でお前へと託してもらえるように…した」
「だが、俺たちの前に現れたのはライダーマンでは無かった…」
『貴様…!』
『リボルケイン!』
『これ以上士を苦しめることは俺たちが許さん!』
『知っていることを話してもらう!』
「俺たちは、『そいつ』を捕えようと戦った…」
『ライダーパンチ!』
『何っ!』
『貴様ももはやこの程度か…』
『な、なんだこれは…!』
『おのれ!リボルクラッシュ!』
『!』
『消え…』
『ぐあっ!?』
『所詮は創世王に成り損ねた、世紀王とも呼べぬ失敗作…キングストーンが泣いているわ!』
『なんだと!』
『置いていくのは抜け殻だけでも構わんか…貰うぞ、太陽の石を!』
「そうして俺たちはなす術もなく敗れ、二人ともキングストーンを奪われた…」
「気を付けろ…奴は…強い…」
「一体そいつは誰なんだ!」
「奴…は…」
しかしそこまで言いかけて、RXは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「光太郎!」
支えようと思わずその体に触れてしまった。
すべてを失いこと切れる瞬間、かろうじて彼はカードと化した。
「…う…」
「うおおおおおおおおおおっ!」
士が咆哮する。
「出てこい!どこのどいつだあああああああッ!」
だが返ってくるのは、孤独な世界に反響した自分の声だけ。
これまで蓄積してきたはずの痛みも、辛さも、その激情に片時だけ消失する。
「誰が裏で糸を引いてようが…まとめて…破壊してやる!」
その結末に例え、どんな地獄が待っていようとも。
残り――七人。