仮面ライダーディケイド考察小説 第十二幕 その1 「世界を賭けた戦い、その果てに立った者」
もうすでに「残党狩り」の様相を呈してきた戦いも、この世界で終わるだろう。
そんなことを考えながらもはや勝敗は明白の戦いを見つめる。
何故彼がわざわざここに現れたのかは知る由もない。だが代用品を使わずに済んだことで、より完全なる結末を迎えられることに頬が緩んでしまう自分が可笑しい。
何人かのライダーに目的を感づかれていたようだったが、その後始末も終えた。
この余興も大詰めだ。
「しかし、どの世界にも似たような場所があるもんだな」
これが最後になるかもな――
そんな感慨に浸る間もなく、戦いの場に足を踏み入れていたことを悟る。
「あの時お前を消しきれなかったことを悔やむよ、世界の破壊者…ディケイド」
明るい茶髪の、飄々とした青年がそう言い捨てる。
「お前に言われたくはないな、その姿は何だ」
一見、なんの変哲のない人間に見える。
だが今彼らのいる場所は時空破断装置によって他のエリアから隔絶されており、その影響から南光太郎などのような肉体を直接改造されている改造人間でさえも変身状態でなければ負荷に耐えられない状況にある。
そこで変身もせずに平気で歩いている理由は、彼がアンデッド…その最後の一人となったとき、世界を滅ぼしてしまう存在・JOKERだから。
「世界を滅ぼす畜生が、人間ごっこか?」
「人間のフリをしているつもりはない――俺は、『仮面ライダー』だ」
士はその言葉を否定はせず、ただ黙っていた。
「お前にその覚悟があるのかどうか、それを試させてもらう!」
チェンジビートルをバックルに装填し、アンデッドの力がバックルを通して剣崎の全身を駆け巡る。
警告音のように鳴り響く待機音を退け、吠える。
「変身!」
『ターンアップ』
全ライダー中最強に近い破壊力を誇るブレイド・キングフォームが振るうキングラウザーに真っ向から競り合い、激情態のディケイドですらわずかに押し負ける。
「ぐっ…」
その歯がゆさに震えるディケイド。
「俺とおまえは良く似ているよ」
そこに余裕を含んだ言葉を投げかけられ――激昂する。
「ぬかせ!」
だがキングフォームとの対峙はこれが初めてではない。これまでの15ライダーや最終フォームとの戦いは初顔合わせばかりだったが、今度はリベンジマッチとなる。
破壊力はわずかに歩が悪い、だが速度はディケイドに利があった。
沸騰した頭をすぐに切り替えると後方に飛び退きながらライドブッカーガンを連射する。
「ぐっ!」
重厚なキングフォームの装甲だったが、それを容易く貫く。
お互いに防御力は相手の攻撃力の前には無力なら、当てた方が勝つ。
ブレイドは取り込んでいるアンデッドの一体『メタルトリロバイト』の力を活性化し守りを固めるが、
速度がより落ちてしまい格好の的と化す。
「これで決める!」
射撃を続けながらファイナルアタックライドへと繋げようとしたところで、激しい爆炎が彼を包み込んだ。
『Spade10・J・Q・K・A ロイヤルストレートフラッシュ』
振りぬいた斬撃が膨大なエネルギー波となってディケイドへと地面を引き裂きながら飛来する。
「ちぃっ!」
たまらず飛び退いたディケイドの眼下を、山をも崩す一撃が唸りを上げて通り過ぎていった。
「…?」
広がった視界の横目に映った人影がブレイドの方へと向かう。
「一人で行くなっていったろ!」
その正体は龍の紋章を頭部に刻んだ真紅のライダー…仮面ライダー龍騎。
「さっきの攻撃はあいつか…」
ミラーモンスターと呼ばれる魔物をカードに封印し、協力関係を結び戦う仮面ライダー。
先程の業火はおそらく彼の契約モンスターであるドラグレッダーの強化体・ドラグランザーによるものであろうと思われた。
そんな彼に息を整えながら笑いかけるブレイド。
「なんだ」
「その、えーっと…とにかく、俺は木戸真司!仮面ライダー龍騎だ!一応名乗っとくからな!」
「…」
どうしようもなく反応に困ったが――やるべきことはお互いにただ一つ。
ディケイドは無言で再び攻撃へと移った。
「うっわったたたた!」
流石にこれをまともに喰らうほど間抜けではないようで、すでに予期していたブレイドとともに左右に分かれて射撃を回避する。
「お前も名乗れよ!」
そんなツッコミを受けながら、無視してライドブッカーガンで二人を牽制する。
そこに生まれた一瞬の間隙を突いて龍騎がベントカードを取り出し、発動させる!
『ソードベント』
龍の反り立つ角のように、炎の力を宿した刃がドラグバイザーツヴァイより展開した。
(…どういうことだ?)
ディケイドは戸惑った。
本来龍騎はオールレンジの戦闘に対応しているため、この間合いでも有効かつ強力な攻撃手段を多く所有している。
シュートベント・アドベントといったカードがそれである。
だが、龍騎が選択したのはよりによって近接専用のソードベント。
ただのバカなのか、そう頭をよぎったがすぐに裏切られる。
「おりゃあああああ!」
「――!」
突如猛然と飛翔し、高速で接近してくるその光景に面食らう。
「がっ…!」
意表を突かれ反応も遅れ、まともに袈裟切りにされてしまう。
「このまま…!」
「そうは問屋が卸すかよ!」
調子づく龍騎だが、二撃目はディケイドもライドブッカーソードで受け流し勢いを地面へと逃がすと、
荒っぽく投げ飛ばし墜落させる。
「うげっ!」
頭から土を巻き上げて、龍騎が情けない声を出す。
「いてててて…」
「ぐっ…」
明らかにデータを凌駕するその動きとソードベントの威力に、ディケイドはダメージ以上の動揺を隠せずにいた。
「あーいてて…小競り合いじゃあ不利だな」
「…まだ、迷うか?」
「そんなわけないだろ!もう決めたんだからな――あの時に」
「…そうか」
ブレイドにも『あの時』が何なのかはわからなかったが、彼の大事な何かが、そこにあるのだと感じた。
それを信じて。
『パーティションベント』
「また…知らないカードか…!」
目の前の龍騎が呼び出したのは本来通常時に召喚するミラーモンスター・ドラグレッダー。
だがその炎の威力は、確実にドラグランザーのそれを上回る。
「…ここで、引き下がれるか!」
迷いを断ち切るように、ライドブッカーソードの剣圧で炎を引き裂いた。
舞い上がる炎を盾に肉薄したブレイドがキングラウザーを頭上に振り上げる。
重い、一撃。
互いに剣を払って再び開いた間合い、しかしそれはブレイドの『射程距離』。
「行くぞ!」
体から放出された五枚のギルドラウズカードがひとりでにキングラウザーへと収束する!
『Spade10・J・Q・K・A ロイヤルストレートフラッシュ』
腰を落とし、全身の力が刃と化す。
そしてその正面に10・J・Q・K・A、五枚のギルドラウズカードが立ち並んだ。
「来やがれ…!」
『ファイナルアタックライドゥ ディディディディケイド!』
ディケイドもまた、最強の一撃で相対する!
「うおおおおおっ!」
「ウェ――――――イ!」
交互に重なり合ったカードへと両者ともに突進、加速し――
刃が重なり合う!
「ぐぐっ…!」
渾身の一撃は互いに拮抗していたが――これまでの戦いで傷ついていたライドブッカーソードはとうに限界を超えていた。
刀身が耐え切れずに少しずつ歪み、ひび割れる。
このままでは、負ける。
脳裏をかすめたその言葉を――否定する。
「俺は…!」
キングラウザーの刃に右肩を押し当て、かち上げる。
「!」
「負けるわけにはいかない!」
右肩を切り裂かれながらも左手にライドブッカーを持ち替え、ガンモードにシフト。
その銃口を突きつける。
「ブレイド!」
『ファイナルベント』
龍騎が危険を察知し、ドラグレッダーを伴ってディケイドめがけて突撃を開始した。
<つづく>