仮面ライダーディケイド考察小説 第十八幕 「私の世界」
コンプリートフォームを手にした仮面ライダーディエンドと、
最悪最凶の力を振るうスーパービルゲニア。
そして再び士の下に駆け付けるべく自らと戦うユウスケ。
閑話休題。
「士君!」
激闘を開始した海東を尻目にデンライナーは時の路線へと飛び込んでいく。
「士君…!傷だらけですよ!」
「はぁっ、はぁっ…なつみかんに…モモタロス!」
「うるせえ!気軽に名前を呼ぶんじゃねえよこの破壊者ヤロウ!お前のせいで良太郎は、良太郎はなあ…ぐぇ!」
「いやなんで怒ってんの先輩」
士に殴りかかろうとしたモモタロスを、ウラタロスの釣り針が引っ掛けた。
「士君…ひとまずは生きててよかったです」
「ひとまずは、か」
的を得ている表現だった。
全ライダーとの死闘、その後に現れたアビス(海東)からの打撃、そして前述のデンライナーに乗り込む際のダメージ。
後半二つは主に身内からの被害だということに若干憤りを感じなくはなかったが、ライダー達との死闘で受けたダメージは途中で命を落としていても不思議ではない。
そしてなにより――失ったものが多すぎる。
残ったのは、使い道も失った二十五枚のライダーカードのみ。
「俺はどのくらい戦ってたんだ」
「私もあちこちしてたけれど…三日くらいでしょうか。海東さんに連れられて、デンライナーであちこちの世界を駆けまわっていましたから時計がでたらめで…正確じゃないですけど」
「そうか」
道理で疲れたわけだ、と息を吐く。
しかし座っているわけにはいかない。立ち上がろうと体を動かすと、夏海が慌てて静止する。
「士君、今は休んでください」
「ゆっくりしていられるか、海東が置き去りに…」
「ええから寝とけ」
這いずってでも扉へと向かおうとする彼を、キンタロスが担ぎ上げた。
「何しやがる、降ろせ!」
怪我人、しかも生身で敵うわけもなく、それでもなお暴れているとリュウタロスがにゅっと顔を出した。
「ダメじゃん、おねえちゃんの言うことは聞かなきゃさ」
「…!」
リュウタロスの双眸が怪しく光る。
その目を覗きこんでしまった士は催眠術にかかってしまい、キンタロスの肩の上でがっくりと脱力、そのまま眠り込んでしまった。
「みなさん、ありがとうございます」
「いいのいいの。それよりどう?しばらく彼は起きないだろうし、今夜は僕の横で夜釣りを楽しまない?」
「結構です」
「そ、そうだね…僕もちょっと遠慮しようかな」
ウラタロスの軽口を躱しながら、座席に敷かれた布団(毛布ならともかく何故電車内に布団一式があるのか理解に苦しむが)の上に横たえられた士の隣に座って窓の外を見る。
そこには結晶のように留まった炎で灼熱に輝く世界が姿を現し始めていた。
「私の――世界」
海東は戦いに赴く前、こう言っていた。
『この戦いの終わりに鳴滝が本性を現して士を始末しにかかるだろう。そうなったら僕が時間を稼ぐ。そのタイミングでしか行けない世界が一つ、二十六番目の世界として繋がっているはず…そこにその宝玉を持って行くんだ。ただし一人で――君だけで、だ』
「本当に俺らが付いていかなくて大丈夫か?」
「あのねえ先輩。泥棒君から説明があったと思うけど、夏海ちゃんはあの宝石のおかげで外に出ても大丈夫なだけで、僕らが外に出たら一瞬で灰だからね」
「うるせえ分かってるよ!大体良太郎がいねえから今はデンライナーから出たらすぐ砂タロスだろうが!」
「あはは…それじゃあ士君をよろしくお願いします」
ほとんど視界が止まった炎で覆われている中、夏海が足を踏み出すと宝石がたたえていた不思議な輝きが一段と増して、その光に触れた炎が退いていく。
降りて数歩、宝石の光が届かなくなると夏海とドアの間に再び火柱が立ち上って止まり、デンライナーも見えなくなってしまった。
この世界はかつて怪人がオーロラと共に押し寄せて破壊されてしまった…夏海の世界。
あの時「紅渡」と名乗った男の術で時が止まったように静止した影響が、今も残っているようだ。
炎で目前も遮られてロクに周囲が見えないが、デンライナーは目的地の近くまで寄せてくれていたため、夏海はすぐにその建物に額をぶつけた。
「あいたたた…」
手でさすりながらも、いつもと変わらずそこにある『それ』を見つけて安堵した。
光写真館。
どんな世界にも変わらず存在した光写真館は、この世界にも残り続けていた。そしてこの中だけは不変を貫き続けている。
それはこの悲惨な世界でも変わらない。
紅渡が現れ道を指示した始まりの世界に夏海は一人立っていた。
「待っていたぞ、あんまり待たされるもんだから一曲と言わず十曲くらいできちまった」
いや――もう一人、居た。
仮面ライダーダークキバ。
かつてネガの世界で夏海達の前に立ちはだかったライダーが、再び降り立った。
※おまけではないですがウラタロスと手錠の下りはだいぶ昔のこちらの記事を参照のことwww