不肖不精な置小屋 seasom2

仮面ライダーのS.H.Fの写真を中心に、まったりやってます

仮面ライダーディケイド考察小説 第十九幕 「姫の目覚めは白い蝙蝠の接吻で」




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 夏海が降り立った、崩壊した世界。そこでも変わらず存在し続けていた光写真館だったが、その中で待っていたのは祖父である光栄次郎ではなく、「ネガの世界」で戦った「仮面ライダーダークキバ」であった。

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「あ、あなたは…!」
 身を竦める夏海に、ダークキバはマントを翻らせながら手を振った。

「怖がるなよ、ネガの世界では驚かせた…変身を解いて俺様の優しく蠱惑的な甘ーい顔を見せてやりたいが、そうすると一瞬でお陀仏だ!というわけで、このまましゃべらせてもらうぜ」

「は、はあ…」

 敵意は感じないがおちゃらけたこの態度のどこまでが演技なのか、どうにも食えない相手には変わりない。
 警戒を解かないまま、彼と対峙する。

「改めて自己紹介だ。俺は紅音也――お前たちと何度か会った、紅渡の父親だ」


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「まあそんなことはどーでもいい!」
「いいんですか…」

 前後の支離滅裂さ、そして身振りの大きさが更に夏海の不安を加速させる。

「ディケイドのドライバーが破壊され、二十四人のライダーは封印されたな!?」

 夏海が頷くと、彼もまた満足げに頷いた。

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「それでいい。これからアンタはその宝石の力で、この世界を新たなディケイドライバーに変えるんだ」

「この世界を…?ドライバー?」

「まあ、そういうリアクションだろう」

 ダークキバ…音也は少し声の調子を落とした。

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「この世界は今、いくつもの世界が重なる境界の中心にある。外の光景は、その膨大な力の干渉で世界が滅びる前の煌めきだ…俺と神崎の二人がかりで時を止めているからこうして維持されているが、いずれそれも持たなくなる。
 だから滅びるときに生じるエネルギーを宝玉、トリックスターに封じ込めてクラインの壺を生成するのがお前の使命だ」
 
「待ってください、それじゃあ…この世界は救えないんですか?」

「残念ながら、な。他の世界と近づきすぎて一時的に対消滅しただけのライダー達とは違い、完全に消滅する。だが、それはディケイドライバーに変えなくても同じだ」

「そんな…」


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「酷なことを言うようだが…そうでもしなければビルゲニアの思い通りにすべての世界が消える。それに、この計画はアンタが発端だ、光夏海」

「私が…発端!?」

「そうだ。思い出せ」

「思い出すって…何をですか!」

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「ネオファンガイアの王妃として戦った、その記憶を」

 ダークキバの掌から飛び立ったのは白く小さいコウモリ――キバット族のキバーラ。

 思わず夏海は退いた。

 これまで一緒に旅をしていたメンバーではあったが、鳴滝と通じている風もあり、夏海は疑惑の念を抱いていた。それが決定的になったのは、キバーラがユウスケを黒いクウガへと変化させて士に襲い掛からせたという事実。

「わ、私を噛んで操ろうとかそういう魂胆ですか!?」

「そんな必要はないわ、だって」

 慌てふためく夏海だったが、キバーラが翼で示したその腰にはいつの間にか真紅のベルトが巻かれていた。

「私は、自分の主を裏切らない」

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 それは突然のフラッシュバック。

 目の前のダークキバにも似ているが、色は全く対照的な白を基調とした姿に変質した『自分』が、手に剣を、腰にはキバーラを従えてディケイドの隣に立っていた。

 ディケイドも自分も、今にも崩れ落ちそうなほど消耗している。

「今から私が、ネオファンガイアの秘術で時を逆流させます」

 自分の声が――他人の声に思えるほど冷ややかな声が――響く。

「そうすればあの怪物をこの世界に縛り付けることが出来ます。ただ、その代わりに私はすべての記憶と力を失って…あなたも全てを失います。」

「それでも」

 士の声。
 ぶっきらぼうで、それでいてなんだかんだ情に厚い彼の声は変わらない。

「倒さなきゃいけないあの野郎と、倒してはいけない奴らの顔を、俺は絶対に忘れない」


 思い出した。
 あの時、彼と共に誓った覚悟を。


 この世界はネオファンガイア。
 そしてあの時訪れたネガの世界は、夏海がかつて相互交流のために訪れていた『ファンガイア』。
 蘇ってきた記憶は他人のもののような、しかし自分の感覚もかすかに残る奇妙なものだったが…幻ではない。

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「安心しろ、ネオファンガイアの善良な民はお前の計画通りにネガの世界…ファンガイアに逃れているし、人間界を襲った連中は渡達が倒した。
 キバーラは今まで顔が割れている俺たちの代わりに、スパイとしてビルゲニアに付いていたに過ぎない」

「夏海様、今までの無礼をお許しください…そして、どうか安心して務めを果たしてくださいませ」

 キバーラから様付けされるのは初めてなのに、どこかにくすぐったさを感じるのはどこかで忠臣だった彼女を覚えているからだろう。

「苦労をかけましたね」

 キバーラの羽を撫でると、くすぐったそうに身もだえした。

「さあ早速始めるぞ!トリックスターをこいつにはめ込んでくれ」

 投げ渡されたのは、中央のレンズと周囲の紋様の無い純白のディケイドライバー。

「メカニック周りはすでにお前の爺ちゃんが調整済みだ」

「おじいちゃんが!?」

 夏海は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
 記憶は断片的にしか戻ってきておらず、その中には祖父――光栄次郎の記憶は無かった。
 自分がファンガイアなのならば、栄次郎もまたファンガイアだというのか。

 その疑問を投げかける前に音也が続きを述べ始める。

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「いいか、その宝石を真ん中の窪みに押し当てて思い出せ。お前が出会ってきたライダー達のことを」

「は、はい」

 言われるがまま空洞に宝石を添えると、手を重ねる。
 夏海はふと壁に張られた写真たちに目を向けた。

 クウガ・アギト・龍騎ファイズブレイド響鬼・カブト・電王・キバ。

 不器用ながら守りたいもののために戦った九人の仮面ライダー達を強く思うたびに、宝石が輝きディケイドライバーへと紋章が刻まれていく。

「大丈夫ですよ士君」

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「あなたはこんなにも、皆を繋いでいます」

 そして――
 ディケイドライバーに輝きが、灯る。



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