仮面ライダーディケイド考察小説 第二十一幕
ここは…
リュウタロスの催眠術にかかり意識を失った士は、不思議な空間で目を覚ました。
星のない空が地平線までを覆い、ただ大理石の足場が冷ややかに光沢を主張する。
暗闇ではない…はっきりと見える自分の体を見下ろしながら、あやふやな感覚を確かめた。
「夢…なのか、全くわからねえな」
それでも足を進めずにはいられないのが彼の性だが、思わぬものを見つけて動けなくなってしまう。
目の前から現れた人影、それは――
「一号、二号…!」
先の戦いで封印されたはずの彼らが、こちらへと歩んでいる。
だが彼らは、何も言わずに士の横を通り過ぎた。
「…!」
そして振り返った時、二人の姿はすでになかった。
さらに通り過ぎるV3、ライダーマン。
「お、おい…!」
呼びかけに答えずただ、通り過ぎていく彼ら。
「ああ…そうか」
士は呟いた。
復讐に駆られた俺は、
こいつらに、
何も――…
「はぁ――っはっはっ!感傷に浸れるとは、いい身分だなディケイドォ!」
後悔も悲哀も容赦もなく、彼を打ち据える声。
「鳴滝…!?」
「追い続け追いかけられ、最後にはこうして終わるのだ!」
突然現れた宿敵のかつての姿に戸惑うが、お構いなしに鳴滝は続ける。
「お前が戦い、通り過ぎて行った者達の犠牲もこれで無駄になった!まさにその名にふさわしいぞ…世界の破壊者、ディケイド!」
「違う!」
士は叫んでいた。
「何が違うというのだ!ん?」
鳴滝のあざ笑うような問いに、真正面から答える。
「あいつらはその命で俺に教えてくれた!この激情に従うことの愚かさを!そしてぶつかり合うことの尊さを!」
手から零れ落ちた力が、今は漲る。
「それに…俺は世界の破壊者じゃねえ!」
「ではお前は一体何者だ!」
目頭に涙を溜めた士は気が付かない。
何故か鳴滝は次の言葉を待つように、笑っていた。
「俺は…」
「俺は…!」
『そうだ!』
「…!」
士が後ろから響いた力強い声に振り向くと、
そこには通り過ぎて行ったライダー達が、
士を迎え入れていた。
「お前は仮面ライダーディケイドだ」
一号が告げる。
「これまでお前が旅をしてきた世界のライダー達とは違い、少々荒っぽくはなってしまったが…我々はお前を認め、力を貸そう」
「一号…」
「我々とてこの体になったとき、復讐の炎と化したこともあった。嘆き、絶望したこともあった。孤独に震えることもあった。だが我々は戦ってきた…自由と、平和のために」
一号が拳を握った。
「そしてお前を待っている仲間のために、戦え!仮面ライダーディケイド!」
「…大体わかった」
あまりにも体に活力が湧き上がり、言葉が震えた。
「…俺からも頼もうか」
「お前はっ…!」
「俺は本当の…いや。もう今はただの『ツカサ』だ」
そのディケイド…『ツカサ』は続ける。
「ビルゲニアを倒してくれなけりゃ、俺はいつまでもこの怨念に縛られて自由になれないからな…頼むぞ」
「わかったよ…頼まれてやる」
バトンタッチのように手を合わせると、士の視界は光に包まれた。
「…!」
士が目を覚ますとそこは、デンライナーの車内のままだった。
ただの夢だったのだろうか…そう思っていると横からモモタロスの顔が迫る。
「おいおい大丈夫か?随分うなされてたぜ」
「…寝起きにお前のその顔を見ると、また夜にうなされそうだ」
「何だとぉ!?」
思わず悪態を突いて、モモタロスの怒りを買う。
「元気そうですね、士君」
デンライナーのドアが開き、夏海が中に入る。
「痛みは大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるか?起き掛けにこの鬼に殴られて散々だ」
「お前が悪いんだろうが!ってなんだカメ、クマ!」
「ほらほら、今から大事な話みたいだからね、先輩」
音也とオーディンに教えられた過去は夏海の胸に少なからず影を落としたが、士の顔を見ると不思議と落ち着く。
士の顔にはもう憔悴の影も、自らを焼き焦がすような激情もなく…まるで穏やかでいて力強い、自由な風を感じるようだった。
(士君を信じたい…いえ、信じます)
「行きましょう、私達の決着を着けるために」
「よし…行くか!」
差し出されたディケイドライバーを受け取り、士は立ち上がった。
第二十一幕
『星座の様 線で結ぶ瞬間 始まる』