仮面ライダーディケイド考察小説 第二十四幕 「生きていく 激しさを」 前編
「ずあっ!」
「ハッ!」
自分の怨敵でもあるビルゲニアを前にして、自分も共に戦わなければという気持ちはあった。
だがそれを押し殺して夏海はこのライダーと戦う。
不気味な迫力で場を包むほどの敵を放置して、ビルゲニアと挟撃されれば二対二とは言え一気に不利になるだろう。
「ハァ…」
間合いが離れると一息つき、首を回しながら王蛇が唸る。
「言うだけはあるようだな、愉しいぜ」
「戦いを愉しむなんて…!」
時折士達からも感じていたその感情は、夏海には到底理解のできないものだった。
いや、そもそも戦いや争いに意味などは無い――それは手段なのだから、と。
だからかつてビルゲニアや怪人達にその感情を向けられたとき、夏海は恐れた。
今も足がすくみ、手は震える。
けれど彼女を奮い立たせるのは――
「だがそろそろ、斬り合いにも飽きてきた。俺の戦い方でやらせてもらう」
<アドベント>
「キシャアアアアアアァァ!」
王蛇が腹部のバックルから取り出したカードをベノバイザーに装填し、召喚するは彼の契約モンスター『ベノスネーカー』。
禍々しい紫紺の蛇がとぐろを巻きながら天を衝き、
上方から青い液体を放出する!
「!」
速度自体は大したこともなく、軽やかに避けるキバーラだったが…
「これは…毒⁉」
地面に着弾した液体は一気に気化すると周囲に拡散し、一瞬吸い込んでしまった彼女の動きを鈍らせた。
腹部のキバーラが毒を中和しようと魔皇力を流すが、それでも体に痺れを感じる。
「…!」
王蛇が次々と召喚したのはかつて彼が他のライダーから奪った契約モンスター達。
(そんな…一体でも他の怪人とは比べ物にならない力を感じるのに、更に二体!でも…)
「考え事をしている暇は無いぞ」
「!」
王蛇の言葉が終わるとほぼ同時に、エイ型ミラーモンスター『エビルダイバー』がキバーラへと突進する!
「きゃあっ!」
痺れた体で回避することもできず、まともに体当たりを受け止めてしまう。
「しまった…!」
そして吹き飛ばされた先にはサイ型ミラーモンスター「メタルゲラス」が待ち構え、細身のキバーラを剛腕で捕える。
「くっ…うう!」
振りほどこうとするが、かえってメタルゲラスの力が強まって彼女を締め付けた。
「ハハハ…素早さもそうなってしまうと形無しだな」
嘲笑いながら王蛇が攻撃態勢に入る。
<ファイナルベント>
身動きの取れないキバーラめがけて王蛇が突進し、命令を受けたベノスネーカーも追従する。
そして最も加速の付いた地点で上空へと飛び上がると、
その背中へと激しい毒の奔流を吐きかけられ勢いは最大に達する!
「うおおおおおっ!」
凶暴な雄叫びとともにその爪先が急降下し、鋭くキバーラの胸を貫いた。
「!?」
かに見えた。
「何だと!」
だがそこに確かにいたはずのキバーラの姿はなく、右足の餌食になったのは自身の手下であるメタルゲラスの胸板だった。
「馬鹿な…確かに!」
メタルゲラスの巨体を軽々と吹き飛ばしながら王蛇が着地する。
そして突然の風を感じ振り向いた先には、
「行きます!」
「シャアアアアア!」
エビルダイバーに乗ったキバーラの姿。
奇にもそれはその力を最大に引き出すための『ファイナルベント』によって繰り出される技――
「ハイドベノン!」
「ぐあっ!」
今度は王蛇がまともに技を受ける番だった。
エビルダイバーの毒を伴う一撃とキバーラの閃く返しの刃が彼を切り裂いた。
「ぐっはっ…!」
「諦めてください、これで詰みです」
大技を受けて未だ王蛇の体は変身態を留めていたが、しばらくは動けそうもなかった。
「この子には貴方への忠誠心がまるでなかった…そこに私の力を注いで、貴方からコントロールを奪いました。あとは貴方に幻覚を見せて銀色のモンスターと相討ちを誘いました。貴方もあの犀も簡単に動ける状態ではありませんし、大蛇一匹でどうにかできる状況ではないでしょう」
「もしあなたが戦いを止めるのなら――私は貴方の命を奪う気はありません」
サーベルの切っ先を突き付けて問いた。
しかし王蛇は嗤う。
「ハハハ…ハハハ…ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハ!」
「何が可笑しいの!?」
「可笑しくなんかねえよ…イライラするんだよ!」
「!」
王蛇は手元に呼び出したベノバイザーでサーベルを払うと、ダメージなど無いかのように素早く後方へ飛び退いた。
「お前はあの女か、あのコウモリ野郎と似てると思ったんだがなあ…よりにもよって木戸と同じことを言いやがる…!」
言われていることは夏海には全く分からない事だった。だがその怒りが苛立ちが、彼の狂気じみた力を倍増させているのは肌で感じる。
<ユナイトベント>
「きゃあっ!」
キバーラの傍からエビルダイバーが飛び去って行く。
更にメタルゲラスも操り人形のように不自然な動きで、王蛇の下へと戻っていく。
そしてベノスネーカーも加わる。
閃光が走ったかと思うとその姿は一つの異形として再誕した。
その名も「ジェノサイダー」。
「なんて…禍々しい…!」
思わずキバーラがたじろぐ。
「死ぬまで――死んでも戦い続ける。それが俺の『願い』だ!」
「くっ!」
王蛇とジェノサイダーの波状攻撃に翻弄されるキバーラ。
「このままじゃ…!」
彼女は追いつめて尚、あのライダーを…仮面ライダー王蛇を倒すことにためらいがあった。
結果こうして窮地に陥っても尚。
だが心は折れなかった。
「もういい…さっさとお前を片付けて次に行かせてもらう」
<ファイナルベント>
逃げ回るキバーラに業を煮やし、ファイナルベントを発動する。
(続く)