不肖不精な置小屋 seasom2

仮面ライダーのS.H.Fの写真を中心に、まったりやってます

仮面ライダージオウ考察(?)小説 第5話 『Wのダブル/踏みにじられる矜持』

「大丈夫?皆!」

 ツクヨミが駆け寄る。
 変身解除した面々が揃う中、いつの間にか白ウォズは姿を消していた。

 座りこんだ翔太郎はかなり傷を負っているようだったが、ツクヨミと少女を見るとまたニヒルに笑い、

「この程度、屁でもねえ」

 真っ先に答えた。

「何だこのキザな奴は」

「左翔太郎、探偵だって」
 ソウゴの説明にゲイツはふん、と鼻を鳴らしただけだった。

「ゲーマーライダーに魔法ライダー、でもって探偵ライダー、本当にライダーって色々いるよなあ」

「魔王のお前が言うか?」

 ここまで呑気に会話していたが、ふとゲイツが気が付く。

「そう言えばこのアナザーライダーども…復活しないな」

「おかしいわね。普通倒されたアナザーライダーはすぐにタイムジャッカーが復活させるのに」

 ツクヨミも翔太郎の傷を消毒しながら首をかしげる

「お前らの事は聞いてるぜ、魔王に未来人」

「何?」

 翔太郎は帽子のつばを上げて、座ったままソウゴとゲイツを見上げる。

「俺は、いや、俺たちは仮面ライダーW。この街を守る一陣の風…だった」




「なるほど、じゃあ翔太郎の相棒のフィリップって人はWの力を奪われてもミュージアムが復活しないように、その図書館に閉じこもっているんだね」

「図書館じゃねえが…まあいいか。で、俺はお前があのジョーカーの偽物を倒してくれたおかげで、一時的に戻っているわけだな」

 ソウゴと翔太郎はお互いにお互いの状況を整理し、この場の問題に立ち返る。

「で、だ。君の持っていたのは恐らくガイアメモリだ。だが、見たところ今の戦いの衝撃で六本とも壊れちまったみたいだし、これで君の心配していたことも起こらないだろ」

「…」

 翔太郎の言葉に、少女は答えない。

「違う」

 そう呟くと、少女はゆっくり歩き始めた。

「私が求めていたのは救いじゃない…この街の、滅び」

「何?」

「これからもきっとこの街にはこういう連中がうじゃうじゃと沸いてくる。その時に、翔太郎みたいに傷ついたり、この場所みたいに壊れたりするものがたくさんある。だから、そうなる前に、全部滅ぼさなきゃいけない――ウォードの言っていた事の方が、正しい」

 ふと足を止めると、少女の髪の毛――黒、銀、青の三色の部分のみが次第に長くなり始めた。

「おい、様子がおかしいぞ」

 ゲイツが警告するが、すでにソウゴも翔太郎も身構えている。
 明らかに幻花に何かが起こっていた。
「『そういうこと、だから俺たちはこの街を壊すことから始めよう』」
「うん…そうね」

 男の声と女の声を使い分け、一人で会話し始める。

「二重人格ってやつか…おい、お前の名前は!」

 翔太郎が問うと、少女が振り返って口の端を釣り上げた。

「『伊波吊ウォード、幻花の片割れさ。これまではどっちかしか外に出られなかったけれど、タイムジャッカーとか言う奴のおかげで、これからは外でも二人一緒だ』」

 その手には、いつの間にかライドウォッチが握られている。

「『幻花は優しいから、最後までこの街を諦めきれなかったようだけれど…俺は最初から、上手く行かなかった俺らの人生ごとゼロに戻すためにも、全部壊そうと提案してた。親父の研究を使ってね。さっきのを見るに、この道具はそれ以上に手っ取り早そうだ』」

 ライドウォッチを起動すると、自らの胸に両手で押し込む。

『ダブル!』

 強い風が辺りに巻き起こり、粉塵を立てながら異形のアナザーライダーが姿を現す。

「あれが俺たちの…ダブルの力から生まれたってのか」

 苦虫を噛み潰すように翔太郎が呟いた。
 彼を更に侮辱するかのように、アナザーダブルはその指で翔太郎を指し示すと、その大切な言葉までをも奪う。

「『さあ、お前の罪を、数えろ』」




「どうやら上手く行ったわね」

 近くのビルの屋上から、オーラがアナザーダブルの誕生を見つめていた。

仮面ライダーダブルは『二人で一人』、それ故に普通の人間ではその力を引き出しきることは出来ない。だがあの人間は相反する二つの人格が共存しているからな…それぞれが各サイドの力を上手く操ることが出来るだろう」

「女の方の人格も、街を破壊するって方向で意見が一致したみたいだしね…」

 オーラがウォッチを持ちかけた時には、ウォードの方が表の人格として存在していた。

 ウォードはすぐさまアナザーダブルに変身したが本来の力が発揮されなかったどころか、幻花によって強制的に変身を解除させられてしまった。

「何すんだ幻花!『私はまだ、迷ってるの』」

 幻花は、自らの選択で世界すら滅びかねないことに恐怖を覚えているようだった。
 だが――
「『だけど私も、憎い。計画の失敗でお父さんが命を絶ったことも、私たちがみすぼらしく生きて行かなきゃいけないことも、この街の悪い連中も、それを見て見ぬふりをしている連中も、そしてそれに傷ついても耐えてばかりいる連中も…』
 まどろっこしいな、本当に。
 『だからひとまずは、あの箱をアイツらから取り返して、ウォード。あの噂の探偵に頼んで、もし何事もなく解決出来たら、私は…この気持ちをまだ我慢できる』」

 そんな会話を聞きながらも、オーラはアナザーダブルの持つ毒素に幻花の心が浸食されるのも時間の問題だと考えていた。

 しかし意外にも最後のきっかけはライドウォッチの影響ではなく、あのキザな探偵が街を守るために盾になったことだった。

「計画の責任を一人で背負った、父親と重ねたのかもしれんな…どの道好都合だ」

 スウォルツはそこまで読んで、あの派生体である六体のアナザーライダーを作ってけしかけたのだろうか。

 オーラは心の片隅にずっと、恐怖に似た感情を抱いている。

 いったいどこまでがスウォルツの手の内なのか――