2周年特別企画 その10
「終わったね、士」
「何だ、居たのか」
何処からか現れた海東は、いつもと変わらずに飄々とした声音でおどけてみせる。
しかしその表情は伺う事が出来ない。
もうこの世界では、変身を解く事すら致命的になる。
『黒い瞳の雷』と呼ばれた存在が撒き散らした漆黒の霧は、いまや雲のようにそれを覆っている。
ある一人の男が呼び出した驚異がこの世界を襲い、ようやく彼ら二人はそれを退けたはずだった。
「結局俺は、壊す事しか出来なかった」
海東は答えない。
ただ二人とも何も語らずに空を見上げていた。
流れすら分からないほどの闇に、微かに星の煌きが覗く。
「暇つぶしに、あの星でも目指してみるかい?」
「お前なあ…光ってるものだったら何でもお宝扱いか?」
「そんな口が叩けるなら大丈夫かな」
「フン」
心配なんかいるかよ、と突っぱねて頬を掻く。
「俺は、鳴滝を追う」
「鳴滝を?」
鳴滝。
次元の壁を操る力を持ち、この世界を破滅に追いやった神々を呼び出した張本人。
「だけど彼の力は君が『リントの紋章』で封じたから…最後の奴の爆発に巻き込まれたんじゃないのか」
「あの野郎、どこからかクラインの壷の口を手に入れてやがった…大きさは小石程度だったがな。厄介な事にそれで次元を渡れるようになっていた」
ディケイドライバーやディエンドライバーの力の源であるクラインの壷。
無限のエネルギーを生み出せる理ではあるが、一度に力を引き出せる量は『壷の口』と言われる器具の規模に依存している。
「奴に他の次元まで滅茶苦茶にされる前に、俺が破壊する」
「それじゃあ僕は、鳴滝の持っている壷の口をいただこうか」
二人とも面の上から顔を見合わせて、笑う。
「素直に手伝わせてくださいって言え」
「逆だろ?士。君が僕のおこぼれに預かるんだからね」
「言ってろ」
重い腰を上げ、士が伸びをする。
「でも士…そのドライバーじゃ」
「ああ。光博士のあの訳の分からない装置が無きゃ、単体での完全な次元移動は不可能だ」
ディケイドライバーは本来、クラインの壷を解明し『壷の口』を制御、その力を無限のエネルギー資源として利用するためのシステムだった。
研究はすぐに行き詰ったが、それを解決したのが士の「次元を超える」力だった。
様々な世界の制御システム…ライダーベルトの構造を調査する事で少しずつ『壷の口』の制御ができるようになっていった。
だが研究員の一人、鳴滝が自らの野望のため、3つあった『壷の口』一つを研究半ばの段階で時空破断システムとして造り替えてしまった。それが呼び出したのが、9つの『破滅』と嘯く力だった。
そしてその対抗策として、残る壷の口の一つをディケイドライバーに、そしてその後時空破断システムとディケイドライバーのノウハウを掛け合わせて作られたのがディエンドライバーだった。
だからディエンドライバーであればドライバーごとの移動が単体で可能だが、士は身一つでしか時空を超えられない。
しかもその次元の数も限られている。
「だからどうした!そんなもん、俺が破壊してやる!」
空間が歪み、姿を現した次元の壁。その前に居るあの男の幻影に向き合う。
『おのれディケイド…見ろこの世界を!私じゃない!お前が破壊したんだ!』
「この壁を抜けて俺に何も残っていなくても…!お前を破壊してやる!」
こうして、彼の戦いは終わり、始まった――
のっけからすみません;
2周年企画ですよ~(笑)
門矢士。自分の過去を知らず、何処から来て、何処へ向かうのかも分からない。ただ写真で世界を撮ろうとするも、何故か写る写真はピンボケだらけ。
「自分はこの世界に歓迎されていない」そんな投げやりな言葉を居候先の夏海に告げる彼。
しかしその言葉は、突然現実のものとなり…
というわけで平成ライダー10人目にして記念作品のディケイド。
これまで(てれびくん企画や電キバ以外)ほとんど関わる事の無かった平成ライダー達が、パラレルバージョンとは言え様々に入り乱れてのストーリー。
基本的にはそれぞれの平成ライダーをリメイクしたような世界の中にディケイドこと門矢士が飛び込み、その世界のライダーと分かりあいながら敵を倒す、といった流れが主になります。
オリジナルキャスト、オリジナルワールドではない、というのがこの作品最大の「点」。
これを「問題」点ととるかどうかでこの作品の評価が大きく分かれるのではないでしょうか。
個人的にはもう皆さん察しの通り、良い点として捉えています。
第一話のお祭りでもうがっちりと胸を掴まれて、二話目で「あらら」となり、三話目で「おお」。
というのも二話目が「クウガの世界」なのですが、ここで士君があねさん(クウガのサポートをしていた警官、一条さんに当たる人物。)の顔面を殴って鼻血出させたりクウガ=小野寺ユウスケに喧嘩売ったりともう散々(笑)
あらら、わざと嫌われるようにやってるなー、と言うのが印象的でした。
そして三話目で紆余曲折ありながらも人々のために士とユウスケが共闘する姿があり、「おお、これは今年いけるんじゃないか」と思わせてくれました。
事実「キバの世界」ではキバのテーマ=親子の絆を見事に二話だけで全く本人達は関わらずでも描ききったり、「ブレイドの世界」では職業ライダーを上手く使ったトリック的な話を展開したりと、始まる前の杞憂をいい形で裏切ってくれました。
さらにこういったクロスオーバー必須の「元となった作品の重なり」も、ミラーライダーに変身するアンデッド・仮面ライダーアビス(正体はブレイドにて登場できなかったハートのキング)の登場などで期待を増していきました。
しかし残念ながら、またも路線変更なのかファイズ編以降、何故かそれまでの脚本家の方の姿は無くなり他の方が代わる代わる担当。
幸い「そのライダーのメインライター」が担当する形が多かったので、元となった世界(話)と比べて大きくブレたりとかは無くなったのですが…その分クロスオーバー的な楽しみはかなり減少。
その煽りを一番受けたのが上の小説で悪の根源扱いされている「鳴滝さん」。
ディケイドに対し地獄兄弟を召喚したり、なつみに揺さぶりをかけたり、仮面ライダーアビスも彼が一枚噛んでいました。
ファイズ編で士君が「お前が何考えてるか、大体読めてきたぜ」という言葉があるとおり、そこまでは結構能動的だったのですが、脚本家変更後はほとんど「おのれディケイド」と言うだけの存在になっちゃいました。
というわけで上の小説はファイズ編までのストーリーラインで、ディケイドのバックボーンを考えると…ということでした。
鳴滝=士君の世界を破壊した張本人、あるいはダークディケイド説を支持しています。
訳の分からない用語はスルーしてください(笑)時空破断システムとか漢字あってるのか調べなかったし…
この話の見所はやはり派手なバトル。
また質や内容がまばらですが、各平成ライダーの世界を舞台とした話はいい話も織り交ぜつつ、楽しめると思います。
BlackやRX好きの人はマジ必見(語調が変わるほど押す)
個人的には全部ひっくるめて、良いライダーや特撮の盛り上げに一役買ってくれたライダーで、大好きなライダーです。否定的な意見も多い小野寺クウガですが、キバの世界や龍騎の世界、アマゾンの世界などで彼が時折見せる強い思いが好きでした。
と言うか多分自分はああいう明るいキャラが好きなんでしょうね(笑)
願わくば最初の脚本家の方がどんな構想で、どう描いていこうと思っていたのか…知りたいですね。
次回「悪魔と相乗り/Wの旋風」
その瞳は何を見る!