仮面ライダーディケイド考察小説 第二十八幕 「幾千もの祈りを胸に受け止めて」
「介錯してやろう…二度と立ち上がれぬように、そしてその墓標が我が力の根源となる!」
ビルセイバーを逆手に持ち、切っ先が狙うはディケイドの腹部。
ディケイドの持つ全ライダーカードが破られたその時、重なり合っている全ての世界が散らばってしまう。そこに生じた宇宙規模のエネルギーを自らに取り込むことこそ彼の宿願。
「さらばだディケイド、いや、門矢士!」
掲げられた剣が、今まさに振り下ろされた!
「何っ!」
「…」
驚愕の声を上げるビルゲニアの眼下で、ディケイドは未だ業火に包まれながらもしっかりとその手で刃を受け止めている。
そしてその隣に、もう一人刃を受け止める姿があった。
「うおおっ!」
ありえない光景にビルゲニアが飛び退く。
だがそれよりも疾く、彼は立ち上がり拳を握る。
「ライダァァァァ、パァンチ!」
「ぐっ!」
判断が遅れ、一撃を受けることを覚悟して防御態勢を取る。
「…!?」
しかし続く衝撃は無く、見るとそこには立ち上がったディケイドの姿のみがあった。
「随分と温度の高い蒸風呂だな」
炎を振り払い、陰気に言い捨てるディケイドに対し、激昂するビルゲニア。
「貴様…一体何をした!」
「さあな。ただ、発破をかけられただけさ」
「あいつらにな!」
ディケイドが取り出したのは――ディケイドのカメンライドカード。
それをベルト側面のディケイドライバーに装填する!
「させん!」
ビルゲニアが即座に念動力を雷に変え撃ち放つ。
激しい光と共に爆発がディケイドの全身を包み込んだがその余韻の中――ドライバーの音声が響き渡る。
<KAMEN RIDE>
<DICADE!>
<SIN-KOCCHOU!>
真骨頂の言葉と共に煙の中から現れた、彼の姿はまさに「仮面ライダーディケイド」、その通常態だった。
「は、はははははは!」
その姿を見てビルゲニアが嘲笑する。
「何をするかと思えば自棄になったか?それとも今の攻撃でコンプリートフォームが解けたか!?」
「さあな!」
「!」
ディケイドが拳を振り上げた時には、すでにビルゲニアの眼前に迫っていた。
「ぬおっ!」
慌ててビルゲニアも剣を振り上げるが、
「ライダーパンチ!」
まさに一号の動きから繰り出された拳は
その鎧を激しく打った!
「ごほっ!」
「まだまだ!」
左足に溜めを作ってから繰り出された回し蹴りが、美しくも強烈にビルゲニアを穿つ!
「こ、の、威力は…!」
まるで力の二号、その力が上乗せされたかのような重さによろめき後ずさるビルゲニア。
「はああああ!」
「ぐうっ!」
更に飛び上がり、繰り出されるは…
「ライダーキック!」
ディメンションカードも伴わない、ただの跳び蹴り。
だがそれにあまたの怪人達が敗れ去った――自分もかつて退けられたその光景がビルゲニアの脳裏に恐怖となって蘇る。
「!」
避けられたディケイドの蹴りは地面に爆弾を叩きつけたかのように炸裂し、ビルゲニアの体を舞い上がらせた。
「一応、義理立てておいてやったぜ…先輩方」
柄にもなく技名を叫んだディケイドは、誰にともなく呟いた。
「馬鹿な!なぜおまえがそんな力を…!ディケイドライバーは限界、肉体もボロボロのはずだ!」
「さあな…だがアイツが…『カドヤツカサ』が、そしてあのバカみたいにまっすぐなライダー共が俺に託してくれた」
もはや、彼自身にあった敵討ちの気持ちは消えている。
「俺は、そのために戦う。この力が、俺と、もう一人の俺と、あいつらの力だ!」
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」
ビルゲニアが激昂し、叫ぶ。