不肖不精な置小屋 seasom2

仮面ライダーのS.H.Fの写真を中心に、まったりやってます

仮面ライダーディケイド考察小説 第二十幕 「ロストヒーローズ」



 夏海がネオファンガイアとしての力を取り戻した時、もう一つ手にしたもの。

 失われていた過去の戦いの記憶。

 彼女はデンライナーへの帰路を歩みながら、それを彼に伝えるかどうかを迷っていた。

 なぜなら、彼の過ちでもあるのだから。たとえそれが、悪魔によって陥れられた結果だとしても。




 夏海の蘇った記憶にある門矢士の第一印象は、今の彼が時折のぞかせる激情そのものだった。

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 国家ネオファンガイアを操る黒幕、剣聖ビルゲニアの存在を遂に突き止めた夏海はその親衛隊と名乗る怪人達を撃破。
 あと一息で宿敵の下にたどり着けるところまで来た。

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「警備が手薄でよかった…この強さの敵がまだいたらたどり着く前にどうなっていたか…」

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「!」
「その姿…敵ってことで良いな?」

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「つあっ!」
ロクな会話も無く襲い掛かってくるマゼンタの騎士。
それがディケイド――士との邂逅だった。

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「くっ!」
(親衛隊!?でもこの強さは――まるで別格!)

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「きゃあ!」
ライドブッカーソードを強引に振り抜き、キバーラを転倒させる。


「あなたは一体…」
 息をするのも苦しいなかで絞り出した夏海の言葉に、士は答えた。
「世界の破壊者、らしいぜ。じゃあな…」


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「止めだ!」

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「…!」

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 そう言い止めを刺そうとする直前に、ダークキバが身を挺して彼女を守った。

「何しやがる!」

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「女を守るのは紳士の義務だ!それに、彼女は味方だ」

 背中を袈裟切りにされたにもかかわらず、その声は軽やかだった。

「なんだと…?」


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「彼女はネオファンガイアの元王女で、ビルゲニアの存在に気が付いている。我々とこうして会ったのは、偶然ではない。」

 突然舞い散った羽と共に現れる金色のライダーがそう告げる。

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「…ちっ」
 変身を解いた士の顔には、憤怒が刻まれていた。



 
 オーディンの作り出した亜空間で夏海と音也の回復を待つ間、他愛のない会話があった。

 もっともその大半は音也のものだった――夏海を口説いてみたり、変身を解く気配のないオーディンをからかってみたり、士の回りをぐるぐる回っていたりととにかく可笑しかった。

 だが夏海がもっとも気持ちを落ち着かせたのは、彼のバイオリンだった。

 まるで妖精の囁きかと思えば、神の荘厳さを感じさせるような、多彩な顔を見せるその演奏に戦い続きだった彼女の心はほぐされていった。

 けれどそんな素晴らしいその音色も、士には届いていないように見える。
「あ…」

 というよりも、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 眉間に皺を寄せながら、寝ていて尚何かを睨みつけている。

「士も体力を消耗しているな」

「そりゃあそうだ。あんな喧嘩まがいの戦い方で次々と刺客とやりあっていればエネルギーの無駄遣いだ」

「…お前も大人しく休んだらどうだ」

「お生憎、当の昔に死んだ身だからな。キバの鎧の再生さえ済めばこちとら万全だ」

 他愛のない(内容としては色々と突っ込みどころが多く黙っているのが辛かったが)会話の外で、夏海はダークキバを観察していた。

 ファンガイアの王の証であるダークキバの鎧だが、本来の所有者である太牙が人間との友好条約を結ぶとともに放棄したという噂は流れていた。

 かつて人間との友好を説き当時の主流であった侵攻派から世界を追われたネオファンガイアも、これを機に人間、そしてファンガイアと共に手を取れると思った矢先に降って湧いた「対人間・ファンガイア論」。

 夏海達王族はそれを抑制するために躍起になったものの王、そして王妃が次々と暗殺され、大臣であるアニゲル(と名乗っていたビルゲニア)が王の代理として据えられた。

 そして彼は――「対人間・ファンガイア論」を国の方向として認めてしまった。

 元々人間からも、同族であるファンガイアからも迫害を受けた歴史のあるネオファンガイア人にとって、その論を受け入れるのは容易かった。

 だがやはりああやって楽し気な人間を見ると、そんなのは間違っていると夏海は思う。
 戦う必要などないはずなのに――

「…ネオファンガイア第一王女、光夏海殿」

 考えにふけっている夏海に、オーディンが向き直った。

「…あ、私ですか!?」

 余りに仰々しい呼び方に面食らい、慌ててしまう。

「ふ、普通に呼んでいただいて大丈夫ですよ?」

「では王女」

「そっちなんですね…」

 夏海の苦笑も意に介さず、オーディンは続ける。

「先ほどの無礼をお許しいただいた上で、共通の敵であるあの男、アニゲルを倒すため、頼まれてほしいことがあります」

「…なんでしょうか」

「ネオファンガイア王家にのみ伝わる時の秘術、その使用を願いたい」

「…!」

 何故そのことを、そういう前に音也が口をはさんだ。

「簡単なことだ。現ファンガイア王の太牙のボーズに調べてもらった。ファンガイアでは失われた技だが、もともとそれを得意としているネオファンガイアならいずれは、とな」

「…あなたたちは一体」

「ただのおせっかいな死人さ、ああ、こっちの目つきの凶悪なガキは違うがな」

「我々は十二分に力を蓄えてきたが、アニゲル…我々にとってはビルゲニアという名だが、奴は遥かに強力な力と卑劣な罠を用意している恐れもある。特に王女と、門矢士にとっては」

 門矢士、彼の凄まじい力は先の戦いで嫌と言うほど知っている。また音也から漏れている魔皇力にダークキバの鎧もまた、彼女では太刀打ちできるものではないだろう。そしてこの二人と行動を共にするオーディンもまた、想像を絶する力を持っているというのは想像に難くない。

 そんな彼が、負けを半ば確信している、何故か夏海にはそう感じた。

「だが…時の秘術ならば、因果を絶ち、もう一度やり直すチャンスを得られる」

「でもそれを使えば…」

「…使うかどうかは王女の判断にお任せしよう。どうしようもなく、そして、もし門矢士という男を信じることが出来たなら、助力頂きたい」

「分かりました。心に留めておきます」

「有難い」

 オーディンは一礼すると、そのまま腕組みして動かなくなった。

『音也、鎧の自己修復が完了した。出られるぞ』
「了解だコウモリ」

「コウモリって…」

 夏海の使役するキバーラもそうだが、キバット族というのは代々ファンガイアなどに伝わる鎧の守護家系であり、下手するとその発言は王族のそれより優先されることもある。それをコウモリ呼ばわりする音也の地位を気にしながらも、どうやら聞く時間はなさそうだった。

「待たせたな士!ウェイクアップだ」

「…寝てねえよ」

 寝ぼけた目をこすりながらそう答え、士が立ち上がる。

「準備はいいか」

「俺に聞くな」

 士がぶっきらぼうに言い、音也がひらひらと手を振る。夏海も小さくうなずいた。

「では…行くぞ」

 オーディンがゴルドバイザーを振ると、亜空間が解除され夏海と士が戦った王の間前の廊下へと戻る。

「変身!」
 すぐさまオーディン以外の三人も変身し、ディケイドが扉へとライドブッカーガンを向ける。

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『ファイナルアタックライド・ディディディディケイド!』
「なっ…!」

 極大の光が、熱波と共に扉を打ち砕いて王座までを焼き払う。

「無関係の人もいるかも知れないんですよ!?」

「知ったことか」

 思わず夏海の手が強く握りしめられる。だが、埃が収まった後視界には誰も居なかった。

 真正面の玉座に鎮座する、一人の男以外は。


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「ビルゲニアァァッ!」
 ディケイドが叫び突進し、ダークキバもそれに続く。
 しかし――

「何っ!」

 違和感に気が付いた時には手遅れだった。

 先行していたディケイドの頭部が半分消えている。だがそれは攻撃を受けたわけではなく、彼の体がどこかへ転送されているためだった。

 ダークキバもまた、勢いを殺しきれず転送結界に突っ込んでしまう。

 夏海が二人へと手を伸ばすが、間に合わず完全に姿を消してしまった。

「ふふふ…こうも簡単に罠にはまると笑ってしまうな」

「アニゲル…!」

 遥か前方の宿敵に剣を構えながら、夏海が叫ぶ。

「おお、王女様ではないか。折角だ、貴様も観覧するといい。門矢士という男の、無残な復讐劇の末路をな」

「!」
 次の瞬間、夏海の体は謎の力に捕えられ、宙に舞った。
「…!」
 抵抗するも指一本動かすことが出来ず、さらには魔皇力も封じられる。

「見るがいい、世界を敵に回したものの結末を」


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『これは…!』
 キバーラとの変身を解かれ、場に似つかわしくない白いドレス姿の夏海の周囲に大勢の戦士たちが立っていた。

 それと向かい合うのはディケイドただ一人。

「ふふふ…ディケイド。彼らに見覚えがあるだろう」

 どこからともなく、ビルゲニアの声が響いた。

「…」

「そう、お前のアーキタイプどもだ。これまで私を追う旅で、お前は彼らに危機を招き、時に見殺しにし、時には力を奪うためねじ伏せてきた。私の働きかけで今や彼らはお前を倒すために総力を結集した。そう、巨悪たる世界の破壊者を破壊するためにな!」

『そんなの嘘よ!』

 夏海が叫ぶが、ディケイドにも、戦士達にも届いている様子はない。おそらくこのビルゲニアの声も、士と自分にしか聞こえていないのであろう。

「…そうか…なら今度こそ、お前を破壊するために…」
『やめて士さん!』

 夏海が叫ぶが――ディケイドは微かに震えていた右手でライドブッカーを握った。

「邪魔なもの全てを破壊してやる!」

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 様々な感情が交錯し、迷う者、迷わぬ者、誰もが力をぶつけあう。

『やめてください…やめて、こんなの…!』

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「王女を離してもらおうか」
「邪魔をするか、仮面ライダーオーディン

 ビルゲニアは上空に浮かんだままのキバーラに視線をやると、悪辣な笑みを浮かべながら続ける。

「危害を加えるわけではない――ただ哀れにも騙され唆された者同士の殺し合いを鑑賞してもらっている、それだけのことだ」

「…」

 
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「だが貴様は死ぬがいい!」

 そう言って繰り出された音速の突きは、虚空に舞った黄金の羽をも捕えられずに宙へと差し出される。

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「ムッ!」

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「ぐあっ!」
 ビルゲニアが背後の気配に気が付いた瞬間には既にゴルドセイバーが閃き、激しく
切りつけられる。

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「おのれっ…!?」
 反撃を試みた瞬間、全方位を同時に太刀筋が走る。

「がっ!」
 彼の悲鳴の後にオーディンは更なる追撃を加えようと姿を消した。

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「図に乗るなぁっ!」
「くっ…」
 だがビルゲニアが放った念動力によって動きを止められ、立て続けに雷に似た衝撃を受ける。

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「見るがいい神崎士郎!貴様の傀儡風情ではたどり着けん、この力の領域を!」

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『Final Vent』

 激昂し、感情のままに力を迸らせるビルゲニアに対し、オーディンもまた切り札を切る。

 次の瞬間、激しい爆発が一面に轟いた。

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 煙が晴れ――残っていたのはビルゲニアただ一人。
 慌てて頭上を見上げるが、そこにキバーラの姿は無かった。

「くっ…キバーラを開放された挙句ビルテクターを犠牲にしたか…だが、これであとはディケイドを始末するのみ…!」

「…それがお前の願いか」

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「馬鹿な!あの一撃を喰らってまだ生きているだと!」
 更に、気配を感じて右を振り向くと――

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「私は神崎士郎の意志…全てのライダーを倒し、残った一人のみが願いを叶えるバトルロイヤル…今ここで再び行うとしよう」
「貴様…!」

 ビルゲニアを取り囲む無数の「仮面ライダーオーディン」。
 
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「さあ…戦え!」




 <続く>